品種登録制度と種苗法

新品種の育成には専門知識、技術に加えて多大な時間、労力、資金が必要であるにもかかわらず、一旦育成された品種は自家増殖が可能である場合が多く、育種家の権利が容易に侵害される恐れがあります。種苗法は、新品種及びその開発者である育種家の権利を保護するための「品種登録制度」について定めることで農業の発展に寄与することを目的としています。

品種登録制度

 品種登録制度とは、一定の要件を満たす植物の新品種を農林水産省に登録することで新品種を育成した者に「育成者権」を与えてその品種を知的財産として保護する制度です。

品種登録の要件等

品種登録の対象

 品種とは、種苗法において、「重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合」と定義されています。ここでいう「植物体」とは、種子植物、シダ類、蘚苔類、多細胞藻類などの個体とされています。

品種登録を受けることができる者

 新品種を育成した者又はその承継人が品種登録を受けることができる者とされています。育成とは、人為的変異又は自然的変異に係る特性を固定又は検定することであり、自然的変異により生じた新品種についても品種登録を受けることができます。

品種登録の要件

 品種登録を受ける植物新品種には要件として
(1)区別性 :品種登録出願前に日本国内又は外国において公然と知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること
(2)均一性:同一の繁殖の段階に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似していること(行政書士注:同じ親から採れた種、又は同じ植物体から得た植物体組織(挿し木、種芋等)を同一条件で育てたときの植物体のほとんどが同じ性質を持っていること)
(3)安定性:繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと(品種として固定されていること)
が必要とされていまう。品種登録には「公知の品種から容易に育成できたか」あるいは「公知の品種よりも優れているか」といった特許法の進歩性に当たる要件は必要とされていません。これらの要件の他に、
(4)品種名称の適切性、未譲渡性:出願品種の名称が既存の品種や登録商標と同一又は類似のものではなく、出願品種の種苗又は収穫物が、日本国内においては品種登録出願から一年遡った日よりも前、外国においては品種登録出願から四年(永年性植物では六年)遡った日よりも前にそれぞれ業として譲渡されていないこと
という要件もあります。

品種登録出願よりも前に出願品種又はそれに関わる労務について商標が登録されている場合、同じ名称を品種名とすることはできません。また、開発品種を海外登録する場合、その開発品種の国内品種名と同じ名称で登録する必要があります。国内の商標を海外登録で品種名とすることはできません。例えば、「〇〇6号」という品種名で国内登録し、その品種に「××大王」という商標を登録した場合、海外でも「〇〇6号」という名前で品種登録することになります。そこで、国内においてキャッチ―な名前で品種登録を行っておれば、海外で商標登録せずにその品種の名前で開発品種を販売することができます。

育成者権の効力と制限

 品種登録を受けると、登録品種を業として独占的に利用できるようになり、また、専用利用権や通常利用権を設定して他人に登録品種を利用させることもできます。育成者権を侵害された場合には差止や損害賠償を請求することが可能になります。育成者権が及ぶ範囲として、登録品種の他に
一.      当該登録品種と特性により区別されない品種
二.      登録品種を親として、この親から変異体の選抜、戻し交雑、遺伝子組換えその他の方法により、登録品種の主な特性を保持しつつ特性の一部を変化させて育成され、且つ、当該登録品種と特性により明確に区別できる品種
三.      その品種の繁殖のために常に登録品種の植物体を交雑させる必要がある品種(F1交配種)
が挙げられます。ただし、専用利用権者が当該登録品種を利用する権利を専有する範囲についてはこの限りではありません。また、
①          新品種の育成その他の試験又は研究を目的とする利用
②          登録品種の育成方法についての特許の特許権者等による登録品種の種苗の生産等
③          前記方法特許の特許権消滅後における同特許に係る方法による登録品種の種苗の生産等
④          ②③の種苗を利用することで得られる収穫物の生産等
⑤          ④の収穫物の加工品の生産等
については育成者権の効力が及びません。なお、令和4年の改正により育成者権の効力が及ばない範囲の中から農家の自家増殖が除外されました(農家の自家増殖に対して育成者権が及びます)。さらに、育成者権者等が、自らの意思で登録品種等の種苗、収穫物又は加工品を譲渡した場合、それらの利用には育成者権の効力は及びません。これを「権利の消尽」といいます。ただし、育成者権者等から譲渡された種苗を利用して新たに登録品種等の種苗を生産する行為、当該登録品種について品種の育成に関する保護を認めていない国に対して種苗を輸出する行為、及び当該国に対して最終消費以外の目的をもって収穫物を輸出する行為は、「権利の消尽」の例外に当たります。
 次回の記事では具体的な保護の内容について説明します。